夢の卵 /
服部 剛
近所にもらった卵等を
朱色の巾着(きんちゃく)袋に入れて
割れないように気遣いながら
時折かさっこそっと音立てる
卵の歌が聞こえるようで
自分の歌に重なるようで
今日も、智恵子は急ぐのです。
アトリエで無心にいのちを彫っている
夫の許へ
日々の暮らしは貧しくとも
夢だけは、夢だけは、割れぬよう――
今日も、智恵子は急ぐのです。
暮れゆく家路の向こうに、ゆげ昇る
夕の食卓を思い描いて
夢の卵を懐(ふところ)に抱いて
戻る
編
削
Point
(9)