夢の卵  /服部 剛
 
近所にもらった卵等を  
朱色の巾着(きんちゃく)袋に入れて 
割れないように気遣いながら 

時折かさっこそっと音立てる  
卵の歌が聞こえるようで
自分の歌に重なるようで

今日も、智恵子は急ぐのです。
アトリエで無心にいのちを彫っている
夫の許へ  

日々の暮らしは貧しくとも  
夢だけは、夢だけは、割れぬよう――   

今日も、智恵子は急ぐのです。  
暮れゆく家路の向こうに、ゆげ昇る
夕の食卓を思い描いて  

夢の卵を懐(ふところ)に抱いて  






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