柘榴の実ー高村光太郎展にてー/服部 剛
 
硝子ケースの中にある、木彫(もくちょう)の
酸っぱく熟れた柘榴(ざくろ)から  
赤い粒等は顔を出し  
薫りは鼻腔に吸いこまれ
僕はひと時、酔い痴れる――  

美術館で立ち尽くす   
旅人の僕に(体の無い誰か)が  
耳元で  
ふいに一言、囁いた  

――生は齧(かじ)るほど、味が出る  

振り返った背後には  
誰もいなかった  






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