「白線の上で」/宇野康平
道路の白線は爪で引っ掻いたようにボロボロで、白痴の老婆が
荷車を押しながら線に沿って歩いていた。そばを、猫が心配そ
うに見つめている。
風車を持つ少年はバースデーの母に、摘んだ花を届けようと道
草もなく帰る。古いモノクロの洋画のヒロインに似ている母は
小さな花が好きで、道端で小さな花をみつける度ポケットにつ
めた。
少年は白痴の老婆にすれ違いざま、「おかえりなさい」と言わ
れ、微笑みを返す。
ああ。母の微笑む顔が見たくて、少年は走る。お気に入りの道
は舗装され直して、白線は夕日の陽光を浴びて光っている。
《劣の足掻きより:http://mi-ni-ma-lism.seesaa.net/》
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