月下美人/中山 マキ
気が向いた時にだけ
分け与えられるビスケットは
とりわけ甘いことを知っているからか
三文小説のような歯の浮く台詞で
多少の喜びも味あわせてくれない
医者と患者のような距離感で
それでも週の多くに顔を合わせるから
似通う思いが見え隠れする
この絶妙な切なさは
奇妙な感情に尾ひれをつけて
知らず知らずの内に僕らは
非現実に属している
その空間に鎮座し、楽しんでいた
美しい唇が
蝶々の羽のように開いては閉じて
時折やさしく名前を呼ぶもんだから
漂ってしまう駅のプラットホームで
少し寄り道をする言い訳を考えてしまう
今夜も
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