思い出の痛みは嘘になる/ホロウ・シカエルボク
したら、ないって言うのよね。
「ないってどういうこと?」
ぼくは捨て子なんだって、とかれは言った。あれは、なんていうのかしら…すごく、しんとした変な声だったわ。高くもないし低くもない。人間じゃないものが話してるみたいな声だった。
「いろんなところでいろんな名前をつけてもらって、その名前で暮らしていた。だから、ここでも誰かに適当な名前をつけてもらわなくちゃいけないんだ。」
そうなんだ、とあたしは答えた。そんな人に会ったのは初めてだった。少なくともその時は。それはそうと、あたし、じゃああたしがつけてあげるって言ったの、そしたら、かれはにっこり笑ってじゃあお願いするよって言ったの。だから
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