鶏供養/そらの珊瑚
れ
食材という塊になり
今
私のまな板の上で
力なく筋肉が横たわっている
おびただしく
流れたであろう血液の川は
既に黒く乾いているか
もう想像したくない。
と君は言う
ベジタリアンになった君を
わたしは引き止めたりはしない
給食で出されたから揚げを
残すことが許されない教室で
こっそりランドセルに忍ばせて帰る君を
もう責めたりしないよ
でもね
わたしは想像する。
ほんのり薄桃色にたたずむ弾力のある肉が
鶏という名前だけで語られるおまえが
つりあがった眼をかっと見開いて
理不尽に殺される恐怖を見たはずだ
末期にありったけをふりしぼり
それはこの世でまぎれもなく
空に爪を立てるような
抵抗の、絶望の、怒りの、命の悲鳴だったと
おそらく乾くことのない幾筋もの川の前で
殺鶏は罪に問われることはなく
いにしえから続く人間の正当な営みであることに
君が眉根を寄せて
NOと言っても
わたしは食べる
わたしとて生きている理由は知らないし
空を飛べぬまま死んでいくのだ
鶏よ、鶏
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