満月の宵/服部 剛
方をむいておじぎ
日常に秘められた
なにげない幸せや優しさを
ポケットにつっこんだ右手で
そっと、ぎゅっと・・・
まだ持ちこたえる余力はありそうだ
明日出逢う人の震えを
あたためることもできそうだ
この両手からこぼれ落ちた
いくつもの夢の名残に
「どうでもいいさ」と言ってみる
胸に疼(うず)く腫瘍をもぎ取り
思いきり月夜の彼方へ放り投げる
ぽつんと光る自販機に
小銭3枚入れて ガタン
缶コーヒーをひと飲み
淡く照らされたアスファルトの上に立つ
ちっぽけな僕に
今宵 満月は 笑いかける
* 初出 湘南文学 ’03年 春号(投稿欄)
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