満月の宵/服部 剛
 
化膿したにきびをいじる
傷跡が残る 
あわてて薬をぬる

受話器に手を伸ばし 君を励ます
受話器を置いた後 互いの傷口はひろがる

醜く口をひらいた腫瘍(しゅよう)が 闇に 笑う 夜
誰もが越えねばならぬ それぞれの長い夜

  孤独やら
  別離やら
  死への怖れやら
  明日への不安やら・・・

君の傷口にぬる薬がありません
僕の右手は術を知らず
化膿したにきびを掻(か)きむしるばかり

今夜は数十年ぶりに
いつもより一まわり大きい満月らしい
月光浴に出かけよう 口笛をふきながら
ポケットになけなしの小銭じゃらじゃら
街灯達は僕の方を
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