満月の宵/服部 剛
化膿したにきびをいじる
傷跡が残る
あわてて薬をぬる
受話器に手を伸ばし 君を励ます
受話器を置いた後 互いの傷口はひろがる
醜く口をひらいた腫瘍(しゅよう)が 闇に 笑う 夜
誰もが越えねばならぬ それぞれの長い夜
孤独やら
別離やら
死への怖れやら
明日への不安やら・・・
君の傷口にぬる薬がありません
僕の右手は術を知らず
化膿したにきびを掻(か)きむしるばかり
今夜は数十年ぶりに
いつもより一まわり大きい満月らしい
月光浴に出かけよう 口笛をふきながら
ポケットになけなしの小銭じゃらじゃら
街灯達は僕の方を
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)