ありがとうの言葉とともに/そらの珊瑚
 
記憶の糸をほどく
風景や音や肌触り
縫い合わされていた
いくつもの欠片が
ふたたび熱を取り戻して差し出される
思い出は語られたがっているのだろうか

子供の頃ひと夏を過ごした祖父母の家
庭に出れば
威勢のいいクマゼミが
四方八方からぶつかってくるような
木々に囲まれた田舎の家だった
「リカちゃん人形の服にどう?」
色とりどりのはぎれを
おばさんはくれた
服やカーテンなどに仕立てられた後
余った生地たちは
手のひらの中でひっそりとして愛らしい
切り口がゆるんでしまったいくつかは
さらさらとほつれかかり
織られる前の糸に戻りたがっているようだった
覚えたての危
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