正常というのはつまらない/桐ヶ谷忍
 
あの時、自分が人の領域から外れかかっているなどどうでも良かった。
なのに、私はいまや、どこにでもいる軽い躁鬱患者だ。
もうあの「きわ」は覗き込めない。
正常であるということを、ひどくつまらないものに感じてしまう。
嘆きに全身全霊を傾けていたあの頃を、私はその嘆きの大きさゆえか薬の副作用ゆえか、
ほとんど覚えていない。
ただ感覚が少し残っている程度だ。
その僅かな感覚を、私は恐れているし、同時にもう一度深く浸ってみたくもある。
正常寄り、になってしまった、という嘆き。
もうあの狂気を、狂気のまま書けないという悲しみ。
鬼気迫るものが、自分から剥離してしまったという事実は、私を深く
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