親愛なる あなたへ/鵜飼千代子
 
リーガルの新しい靴を履いて出掛けたあの日、突然片方の足だけペッタン、ペッタンと、地面と仲良くなってしまって、思わず足を止めたことを。なんだろうと思って靴を脱いでみて靴の中を覗き込んでも何もないし、気のせいかと思って、私はそれからもまた、何歩か歩いてしまったのですよ。ぺったん、ぺったんと。
おかしいなあと思って靴を裏返してみると、(その時の私を思い浮かべてみてください。)下ろしたての靴にガムが、ガムが着いているのですよ。血の気がサーと引いて、街路樹にもたれ掛かりながら、石でこそげ落とし、紙に包んでごみ箱に捨てました。
あなたに、背中汚れているよなんて言われて、その日一日ブルーだった私の気持ち、わかりますか?
あなたは、そんな被害者をつくりだす種を播いたのですよ。
少し考えてみてください。愛しています。あなたの妻より。



でらむか大賞
〜でらむか大賞うっぷんばらし大賞 作品集〜所収
1998.3.20初版発行。
編 愛知県西春町 発行 ぎょうせい







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