禅の教室/服部 剛
夕暮れの無人の教室に入った私は
黒板に、白いチョークで
自分のからだを描き
胸には 我 と一文字書いてみる
(その顔は、何処か悩んでいるようで)
黒板消しで、さっと 我 の文字を消し
代わりに ○ い入口を書いてみる
(そこに新たな風は吹き――)
夕暮れに染まり始めた教室で
椅子に座り、机の上に開いた古書は
惑う私に語りかけ
「心の窓を開いたら
何処からか吹いてくる
あの風に
あなたの生をまかせなさい」
夕闇の誰もいない教室で
私は古書をぱたんと閉じて、目を瞑(つむ)る――
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