野を渡る風/Lucy
空き地を渡ってきた風が
草の匂いを閃かせながら
耳もとで
ささやく
「ただいま・・・」
あっ
帰ってきたの?
君と出会ったのが
いつだったか
どこだったのか
思い出す前に
懐かしさが
記憶の底に
ひらいた
明るい裂け目から あふれ
胸一杯に
拡がって
遠くの扉がちょっとだけあいて
閉める寸前に
振りむく君の横顔を
確かに見たと思う
見失った気配を探し
木陰を背にして
光る えのころ草の穂に
眼を凝らす
もう一度
小さな声が
すぐ傍で聞えた
「おかえり・・」
憶えていてくれたの?ずっと・・?
振り返るけど 風は
もういない
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