一方井亜稀詩集『疾走光』について/葉leaf
在のカオスから物語的な秩序を創発させ、そこに彼女が表象可能な筋道を作り上げるのである。そしてその筋道は、内面と外面の不調和、つまり、安穏に道を歩いていたらふとガードレールの傷があったという、内面の安定性と外面の不安定性の不均衡により生じているのである。
だとすると、一方井の詩編は一つ一つが彼女の自己に関する物語であり、その集積であるこの詩集もまた、彼女にとって重要な部分を占める物語的歴史ということになるだろうか。
無色透明の風が吹き
橋の袂の古本屋から
黄ばんだ紙の匂いが
薫って来ていた
それは
遠い人の
吐息のように漂って
先刻
中折れ帽をかぶった人が
この道を
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