一方井亜稀詩集『疾走光』について/葉leaf
そして、出来事については記述者の主観的な解釈が混じる。このような意味で、一方井の詩と歴史記述は相似しているように思われる。
もちろん、通常の歴史記述は社会の出来事について行われ、一方井の詩作品は彼女の個人的な出来事について行われる。その差異はあるだろう。だが、社会についての史的記述と同様に、個人についての史的記述も考えることは可能なわけであって、それは「個人史」とでも呼ばれるべきものである。
歴史の根源には、世界の諸力の細かな発現がある。ふと風が立ったり、木の実が落ちたり、誰かの脳裏に記憶が蘇ったり、誰かが誰かに意思を伝えたり、そのような、個別で些細な力の発現が歴史の根源にはあり、それは世
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