王国/そらの珊瑚
 
いい具合に過去が薄まった時に、まるでそのことがなかったように私の前に現れるのだ。

朝起きて昨晩は一睡もできなかったと彼女が言う。まるでその不眠の原因が私のせいだといわんばかりの口調で。何かとても寝心地が悪かったの、と。お客様布団まで出してあげたというのに。

彼女がピンクのキャリーバックをがらがらとひきずりながら出て行ったあと、敷布団の下から一枚の紙切れが出てきた。それは私がいつか書いて、書いたことさえ忘れていた詩のかけらだった。
孤独。
それはとてもうすい、のしいかのように成り果てた孤独だった。見方を変えれば、一枚の青い羽だった。本体が飛び去ったあと残されたもの。
昨晩彼女はこんな薄っぺらいものの存在を、その背中であたかも固い石であるかのように感じ取り、結果眠れなかったのだと知る。
彼女はもしかしたらほんとうに王女さまなのかもしれない。失われたどこかの国の。
或いは月の血筋の。

安眠できる寝床に、王女さまがたどりつく日は来るのだろうか。
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