まほろばの声 /
服部 剛
在りし日の作家が住んでいた山荘に入り
籐椅子に腰を下ろした旅人は瞳を閉じる。
傍らの蓄音機から流れる古びたショパン
のバラードと窓外で奏でる晩夏の蝉のコ
ーラスの二重奏に耳を澄ます――開け放
たれた窓から忍び寄る風の霊気は彼の首
をそうっと撫で、蝉等のしきりに鳴く声
を翻訳しようと思い立った彼は、机上に
開いた日記帳の空白に、言葉を綴る。
汝の生を炎の如く、全うせよ――
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