風の手紙/服部 剛
追分の池の周りの
畦道は
木漏れ日の光と影が交差して
晩夏の蝉は
静かにじぃ…と経を詠む
くっきりと膨らむ雲は
絵画の空を、東へ移ろい
池の向こうの緑の木々も
風の行方に身を傾(かし)げ
私の目の前を埋め尽くす
背丈の高い草群は
わらわらめらめら揺らめいて
――この世界の交響曲を、指揮する者は
追分の空の何処かに
そんな予感を
葉擦れの囁きに聴きながら
ベンチへ腰かけた、私の膝の木漏れ日に
枯葉の手紙が一枚、落ちてきた
私はそれを栞(しおり)にして
誰かと交わす約束のように
そっと「美しい村」の頁に挟んだ
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