残月/由木名緒美
 

秋の夜の先端が月に届き
丸い円の中心から滴り落ちる雨粒が枝葉を揺する

遠く近く震わせる鈴虫の唱和に
一際大きく腹をこする一匹の独唱
寒気にさらされ弱りゆく命を一心に鳴らし
鈴虫は何を思う

一つの季節の終焉を前に、一族の記憶を背負い 
どんな歌を詠むのだろう

子を失くした母があっただろうか
伴侶に出逢えなかった片われがあっただろう
虫けらとして産まれた生を
高らかに誇っているようにも聞こえる

鈴虫よ
お前の声が聞こえたら
今夜もそっと雨戸を開けよう
夏に失くした熱を思い出すため
私も眠れぬ夜を過ごすだろうから
きっとお前の最期も聴きとれる

お前の紡ぐ物語が私の夢に波紋を落とし
二つの夏が浸潤する
そしてついにお前の歌に詠われた
その喜びと悲しみを知るのだろう
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