『担架』/あおい満月
鏡の前のぼくの瞳に映る彼女は
血の涙をながしている
彼女は聖母なんかじゃない
手には電気コードを持っている
黒い電気コードが
ぼくの首を締めつける
ぼくの口から彼女の手が這い出てきて
ぼくの眼を抉る
彼女は何者なのか
赤い眼をしている
化身とはなにか
情念の化身とは
ぼくのなかで蟠るものが
毛孔から湧き出でるように
ぼくの足元を流れていく
地下鉄の窓に
血に濡れたぼくが映る
急ブレーキで
電車が止まる
人が飛び込んだという
アナウンスが流れる
ぼくは見た。
見覚えのある白い手が
血にまみれて運ばれていくのを
担架の上の彼女は
赤い眼をしながら
笑うように
息絶えている
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