香之手紙/影山影司
 
か分からんけど、色々手紙を書きよるんや。メールやら電話でも良かったんやけど、なんとなく言い出せんでな。知らん内に、もう何年も連絡しよるんよ」
「会ったりはしたん?」
「やー、しとらん。隣県の人やけん、会おう思うたら会えるんやけどな。それもなんか野暮かと思うてな」
 兄貴は、頭をボリボリと掻いた。
 含羞というのだろうか。喋りながら、自分でも良く分からない恥ずかしさがあるのだろう。
「きしょいかもしれんけど、手紙が、えぇ匂いがするんや。香水の匂いの時もあるし、なんちゅうか、家の匂いみたいなんがする時もある。飯の話の手紙の時にな、母さんの煮物の匂いがしたんや。それが忘れられん。あの甘じょっぱ
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