香之手紙/影山影司
まめに掃除しているのか、それとも、ろくすっぽ家にも帰らずに働いているのか。
おそらく、両方だろう。
なんとも言えず、黙っていると兄貴がポツリと
「手紙を、出しよるんよ」
と言った。
「手紙? なんの?」
「なんのて、普通の文通やが。どこそこへ行ったとか、何食ったとか、そういうんを書くんよ」
誰と? と、思わず口をついて出た。
兄貴は、田舎育ちの男らしく、無骨な人間だ。学生の頃から本の一つも読まなかったような男が、文通とは。驚いていると、兄貴は順を追って話し始めた。
「初めはな、宛名間違いで来た手紙やったんや。送り主に連絡したら、礼の手紙が来てな。そっから、何か分
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