香之手紙/影山影司
「俺はえーんやが。飯も母さんになろうたけん、作れるし。家も継がんが。ほいでも兄貴はちゃうやろ。会社もあるし、そろそろ身を固めてもえぇ歳や」
兄貴が、箸を茶碗の上に置いた。
「そう責めんなや。せにゃいかん言うても、ほいじゃ明日結婚するわ、とはよう言わんが」
と、ビールを一息で飲み干す。
しまったな、と思う。俺は、兄貴と違って何もなかった。家も、財産も、ほとんどもらっていない。その代わり、自由だ。面倒くさい親族の顔出しも、兄貴がやってくれている。会社の経営状態は、悪くもないが、そう楽なものでもないと聞いている。家に帰るのは一年ぶりだが、台所同様、家中綺麗なものだ。几帳面な兄貴がこまめ
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