香之手紙/影山影司
たまには使わんと、錆び付いちまうが」
棚に仕舞い込まれた包丁、まな板、フライパンを引っ張り出して、近所のスーパーから調達した野菜を刻む。どうせ冷蔵庫の中にはビールしか入っていないだろうと、材料を買ってきておいたのだ。熱したフライパンを振りながら、少し安心する。台所は、料理の匂いがしなくちゃならない。無臭の台所は、死んだ台所だ。
「この匂い……」
缶ビールをグラスへ手酌する兄が一人、呟く。
「母さんが得意やったな、青椒肉絲」
「ガキの頃はよく食ったっけな。今じゃもう、あんま食えん。材料が余ってももったいないけん、一応作るが。残りはツマミにでもしようや」
兄貴は父に懐いていたが、
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