香之手紙/影山影司
麗な字で端から端まで埋め尽くすように言葉が並んでいた。読んでいる最中に酒臭くなった兄貴が、聞いてもいないのに解説を入れてくるのには閉口したが。
兄貴が用を足すと行って席を外した隙に、他の古い手紙も開いて、匂いを嗅いでみた。兄貴の言う、香水やら料理の匂いは何処にも無い。時間が経ったせいで、その匂いは消えてしまったんだろう。
いつか、あの最後の手紙に残った消毒薬の匂いも、薄れて無くなるのだろうか。
兄貴はこれから、何度もこの手紙を読み返す。
そして時折、消えてしまった香を思い出しては、筆を執るのだ。
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