運針/千人針/そらの珊瑚
日々の習慣こそ愛おしい
扉を開けてただいま、と言う
杖は手摺に立て掛ける
靴を脱いで右端に寄せる
一人前の惣菜を冷蔵庫に入れる
白い手拭いを
四つ折りにして
赤い糸で等間隔で縫うように
ゆっくりと繋ぎ目を合わせながら
降る蝉しぐれの中で狂わずに
私は
今日も
帰ってこれた
ここへ
一針を指すために
日々の習慣こそ慈しむ
戸を開けてただいま、と言う
日傘は三和土の信楽焼の壺の中に仕舞う
下駄を脱いで右端に寄せる
配給の屑米は米櫃に入れる
白い手拭いを
四つ折りにして
赤い糸で等間隔で縫うように
丁寧に繋ぎ目を合わせながら
降る彈があの人に当たりませんように
私は
今日も
帰ってこれた
此処へ
弌針を指すために
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