夏、プールにて。/時子
 
って泳ぐか?」 
ハハハ、と鈴木は笑う。 
デリカシーの欠片もない。 
僕はその言葉に「すみません」とだけ返した。 
小さい声だった。 
制服のシャツの袖で額に浮かぶ汗をぐいっと拭う。 
ここは、あの青い水の中よりずっと息苦しい。 
高校最後の大会を一週間後に控え、僕は交通事故で右足を駄目にした。 
交通事故と言っても、車に直接ぶつかった訳ではない。 
トラックにひかれそうになったトロい猫を助けた際に、ガードレールにしこたま足をぶつけたのだ。 
医者の判断は骨折で、僕の足はあっという間にギブスで固められ、手には松葉杖を握らされた。
三本目の足は陸地で歩くのを助
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