蛇口/時子
も少なくなった。
申し訳ないとは思う。でも、思うだけでどうにもしないでいる。
美味しいご飯を「おいいしいよ、いつもありがとう」と言えないまま、僕はその日も蒲団にもぐりこんだ。彼女も黙って僕の隣に寝そべった。
目覚まし時計の秒針の音が大きく聞こえるほどの静けさの中目を閉じた時、なにかゴリゴリとしたものが僕の背中に当たった。
振り向いて見てみると、彼女の背中にそれまで見えなかった蛇口があった。
蛇口だ、と思った。
上半身を起こし、僕は彼女の蛇口をゆっくりと捻った。
今までの誰もと同じようにジャーっと水が流れだし、蒲団が濡れていく。でも、蒲団がいくら濡れても僕はそ
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