どうでもいい事シリーズ/兎田 岳
 


左腕につけている腕時計は朝の9時過ぎを示していた。下り電車は平日でも人がまばらで、出勤中の制服組はほぼ見当たらなかった。彼が乗車した駅を発車しようという時、電車は何らかの些細なトラブルで数分駅に停車した。イレギュラーな停車だ。形式的な車掌の詫びの後、電車は数分の遅れを取り戻さんと少し焦って動き出したように彼には感じられた。一日に大量の人間や貨物を運ぶ電車は毎日それだけのトラブルを発生し、組織内ではその考察と対策が日常的に行われ、末端である今彼がのるこの車両の車掌もその例外ではなく、この些細なトラブルによってわずかでもたとえば残業させられたりするのかしらと彼は思いをめぐらせた。

そうこ
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