もらい乳/そらの珊瑚
 
ばーばに手を引かれ
ゆるい坂道をてくてくいけば

「コカ・コーラ!」
わたしは畑に捨てられていた瓶を指さして叫ぶ

ママ、という言葉は知っていたけれど
ママ、と呼ぶ対象がいなかった
日々蓄積されていく
闇鍋さながらの言葉のうずのなかで
混沌から素手で拾い上げるかのように
供物であった 高々と差し出した音は
「コカ・コーラ」

生まれて初めて
しゃべった言葉が
「コカ・コーラ」

黒い流体
得体が知れなくて
発泡しながら喉の奥をひりつかせていく
乱暴に愛撫するように
だって工場生産だから
母性なんかなくったって
子は産める
グラマラスな硬質ボディの本
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