岸田劉生「写実論」を読み解いて考える、批評とは何か/中川達矢
 
批評ですることができる。読み手は、そうした書き手の立場を無視して、自らの読みの正当性を訴えるために批評にあたることができる。
 しかし、この議論を考えるにあたっては、次の点が指摘できる。果たして、批評は誰に宛てて書かれているものなのだろうか。劉生の批評は、指南書であるとは言い難い。美術館に観光で訪れるような人に対して宛てているようには思えない。自らの立場を弁明する形で批評がなされており、もしその宛て先を想定するならば、同時代に生きる、流派の違う画家や批評家であり、将来『美の本体』を読み、芸術を志すであろう後代に向けても宛てられているように思える。そのように感じるのは、劉生の批評が、少々高尚味を纏
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