セミ/兎田 岳
この時期になると、セミの無惨な姿を路上で度々見かける。そのセミに関して、その「無惨なセミ」の上空を通過するヒトは何を思うか。ヒトには記憶する能力が備え付けられた。誰とどこでどうした、どこで何が起こった、はたまた誰かの魅力的な刹那の表情を、ヒトは自身が思う以上に記憶している。セミには記憶がない。記憶がないから文明がないし、自らが儚い命を備え付けられた星の名の下に生まれ出た事を自覚していない。ヒトはセミの鳴き声によって夏の訪れを認識する。そんなセミとヒトとの関係は資本主義が成立するよりはるか昔からあたりまえのように存在した。それが地球の真理であり、ヒトはその構造を自らを頂点に置いてヒエラルキーと名
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