昨日私はロシアにいた/Seia
 

昨日私はロシアにいた
いたことだけはわかっている

隣のおじさんは虫を戦わせるのが好きだった
時々モザイクがかけられていたが
あれは不快害虫だったのだろう
ゴマダラカミキリが
上目使いでこちらを見ている

勝手に家に上がってきた髭面の男が
寝室の枕をガラケーで撮影している
「昔のケータイの方が味があるんだよな」
聞いてもいないことをぺらぺらぺらぺ
(PSY)と背面に書かれた薄青い機種を私は知らない

直方体と立方体の集合体を
軽やかに駆け登っていく
頂上から見える景色は
山、屋根、山、山、雲はない、山、雪、
足元の穴に落ちると家の畳に尻餅をついた
 
新聞と雑誌を切り抜いて
閲覧用の物語を作っている
作っているというか貼っている
犯行予告のような紙の束を
クリアファイルに差し込んでいく

横に長い突き出し窓を開けると
向かいの白壁に反射した光を
直接身体に浴びてしまう
埃がちらちらと輝いている
意識を失いそうに、そうに、そうに、

昨日ロシアいたことはたしかなんだけど
こっちを見るな、カミキリ
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