望郷/ヒヤシンス
 

夏も盛りの暑い午後、私は一人途方に暮れる。
港の見える公園で黄色い薔薇が咲いている。
私の瞳に映るその薔薇を見つめる人はいないので、
薔薇は私がこの場から立ち去る事を許さない。

かつて愛したこの場所に未練の風が吹いている。
生暖かいその風に黄色い薔薇も揺らいでる。
行き場を失うこの私に薔薇たちが昔のように語りかける。
あなたはもう私たちを愛していないの、と。

それはちがうよ、黄色い薔薇たちよ。
私は今でも君たちを愛している。
風になびく薔薇たちの微笑みが友愛の念に満ちている。

美しい薔薇よ、黄色い友達よ。
しばらく避けてはいたけれど、私はやはりこの場所が好きなのだ。
だから嫉妬に燃えるその棘をしまっておくれ。

丘から望む港にも、きっと同じ風が吹き、黄色い薔薇が咲くのだろう。

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