蝉の話をしてあげよう/佐東
 
蝉の話を
してあげよう
焦がされるまで
力のかぎり

蝉の話を
してあげよう
身体をふるわせ
夏を生きる

きみを
やさしく包みこむ
ていねいな
風通しのよい
午後の産着の
そのように

溢れる緑の只中に
ちいさな手の中
力いっぱい握られた
やくそくの合唱
そのように

夏うまれの
きみに

蝉の話を
してあげよう




* * * *

瞳を
見つめてはいけない
ひぐらしの瞳を

夏の森は
いのちの影を
より濃くしながら
内耳の奥に
寄りそう
青い かなしみ

草いきれ
つちの底から
せり上がる熱量
[次のページ]
戻る   Point(8)