木のひと /服部 剛
 
生後数ヶ月で両目を摘出してから 
声と言葉を発しなくなった彼女は 
木の世界の土壌に根を下ろし 
大人になってゆきました 

ある日、遠くから来た旅人は 
人に話せぬ深い悩みを打ち明け 
彼女はぐいと腕を引き寄せ 
旅人の背に、手をじっと当てました 

悲嘆の人の傍らで 
彼女は黙する木のように 
何をするでも、語るでもなく―― 

旅に疲れ、影に覆われた 
その顔に 
ゆっくり日向(ひなた)は広がります 

無明の世界に生きる 
彼女の無言の祈りによって 







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