母なる湖/中村 くらげ
 
蛇口をひねると水が出た

コップから溢れても水は出続けた

いつからかそれが当たり前になり

有り難みも薄まってしまった


母を頼ると愛をくれた

母は無償の愛を与え続けてくれた

いつからかそれが当たり前になり

ありがとうが言えなくなってしまった


そのうち湖は枯れ果てて

蛇口はカラカラと音を立てるばかり

一滴の水も出なくなった時

渇いた喉から後悔が漏れた


母は病床に伏せながらも尚

私に愛を与えようとしている

母の目が開かなくなった時

乾いた心に雨が降り注いだ


私も今は母になり

凪いだ湖に風が吹いた

波立つ水面(みなも)のその際(きわ)からは

子に注ぐ愛が溢れていた

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