【凪】詩人サークル「群青」七月のお題「風」から/そらの珊瑚
 
ってゆききできる
祖父は
もうおいそれとはいけない
一歩通行の
(行くことはできるけれど帰ってくることはできない)
遠いところへ行ってしまったけれど

時々貨物列車で実家へ荷物を送るために
小荷物をかかえ
駅まで母と出かけた
クロネコヤマトはまだなかった時代
小さな私は木のカウンター越しに
爪先立って
箱が積まれている様子を見ていた
母のおくりものも
手を離れれば
たくさんの積み木のひとつに
組み込まれていくのを

海のない母の故郷の夏は
うんと暑かったという
冬はからっ風がふきあげるくせに
夏には風がどこかへいってしまうと
海のない街にも凪があったという
なにもかも
ときがとまったようにうごかなくなる
そんなじかんが
だれにもおとずれる

麻紐でくくられた荷物には
宛先を記したかすれた茶色の荷物札が
銀色の細い針金で
ていねいにとめられ
ほんの小さな風にさえ
くるくるまわっていた




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