手紙/シホ.N
電報が来た
○○死す、連絡せよ
僕は便箋の上の
虫をつぶした後の
黒っぽい粉のような跡を見つめながら
それが○○だという気がした
それで僕は一晩中かかって
ていねいにていねいに
その便箋を折り畳んだのだ
○○は死んでしまったのだから
僕にとって○○はずっと
便箋の黒いしみであり続けてもいいわけなのだ
しかしそれは
永遠、というようなものではないし
そのようなものは僕の手にないのだし
黒いしみはただやはり
汚らしいしみでしかないわけだった
そんなふうなことを考えながら
惰眠をむさぼったりしているうちに
僕はまた
手紙をだしそびれてしまった
そして○○はいない
僕はやはりこうしてずっと
手紙をだしそびれつづけるだろう
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