谷中日和 /服部 剛
谷中ぎんざの通りには
石段に腰を下ろした
紫の髪のお婆さんが
せんべいを割り
群がる鳩に蒔いていた。
向かいの屋台は
木の玩具屋で、おじさんは
「ほれっ」とベーゴマを
巻いた糸から台の上に、放ち
野球帽の少年に手本を見せた。
今は亡きちいたけおさんが
旨そうにメンチをほおばる
写真のある店で
僕もメンチをほおばりつつ
色々な店で人の賑わう
谷中ぎんざを、ゆっくり歩く。
遠くから、喪服姿の青年と
遺影を両手に持つ父親の
不思議なほど日に照らされた
親子三代のほほえみが
僕の傍らを通りすぎていった。
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