テイク・ザ・ドラゴン/済谷川蛍
ハートルが私の前に立ったのだ。彼は私の愚行を身を挺して庇ってくれた。ドラゴンとハートルの間で、言葉を交わさないどんなやりとりがあったのかはわからない。ゆっくりと、私たちは広場から退いた。
それから間もなく、ハートルが死んだ。彼は死ぬべき人間ではなかった。しかし5年前、嘘のように交通事故で死んでしまった。ドラゴンと対峙した呪いだろうか? ドラゴンに運命を捩じられ曲げてしまったのだろうか? 私はハートルとともに生き続けるという人生の目標を失ったのに当たり前のように存在する日常の奇妙さを、読書しているときや酒瓶を口につけた瞬間などにふと思い出すことがある。
「写真を撮ることは理解の証なんだ」
ハートルの言葉が頭に響く。
あの日から私が写真を撮らなくなったのは、神もこの世界も、理解したいと思わなくなったからかもしれない。
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