鎮魂/ヒヤシンス
 

グレーに染まる空を見上げながら一篇の夢を見た。
見知らぬ庭園。真昼の舞踏会。
音の無い談笑が私の胸を締め付ける。
額の無い絵画の中で彼方のマリア・テレジアが私をじっと見つめる。

混乱した時空の中で、皇帝に献上する音楽はすでにいくつも出来ている。
紙上の踊り子たちは自身の意志を持ち、すべてが天を向いている。
華やかで、明るく、楽しく、ときに艶やかに。
天上の神々は微笑み納得する、間違いは無かった、と。

惜しみない賛辞に耳もくれず、絢爛豪華たる文章で認められた手紙を破り捨て、
酒に溺れ、厳粛な父親の亡霊に怯える魂の孤独を誰が知るか。
華やかな音楽の内に流れる幼子の涙を誰が知るか。

ふと我に返ると、相変わらずのグレーの空だ。
彼の魂の悲しさに同情などしない。
しかし、今日も一日彼の音楽に接し、深く味わう事になるだろう。

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