夏草/Lucy
踏切の横の空き地は草ぼうぼう
傾いた陽光が
影と日なたに草はらを分ける
通り抜けるものの風圧と
しつこい音の点滅にせかされ
ひとあし 踏み出そうとする
幼時の一瞬に接続しそうな時間の震えを
吸い込みながら
四両連結の
列車を見送ったのだった
すっかり憶えてしまうほど
くりかえし見た車窓の景色
親しい友がいて
通いなれた建物のある街へ
私を運ぶ
いつかまた乗り込むはずの
何度も戻ってきて
何度でもまた発車するはずの
その列車
障害物でもあったのか
珍しく長い警笛を鳴らし
緩いカーブを曲がりながら
視界から消えて行く
ふいに私は理解した
自分がたった今何を見送ったのかを
遠のいていくものと
とり残されるものとの間に
夏草が生い茂る
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