月の力を信じている/村上 和
 

たしか、月という名だった。
名前とはたいていの場合
生まれた後付けられるのだろうが、
それは生まれる前から月として
ただ、そこに在ったのだと思う。



結婚式に参列している。
周りは知らない顔ばかりだ。
あんなに小さかった赤子が、
私の知らない場所で、これだけの者達と出会ったのだ。
沢山の物語があり、
その全てに始まりがあって、
そして、終わりが来るのだ。



彼は突然彼女を思い出す。
記憶の遥か彼方に流されたと思っていた想い出が、
古いVTRの様に回り
出会い、笑い、泣き、
別れを終えた後静かに止まる。



子供達よ、
戦争の悲惨さを覚えているだろうか。
兎が空を飛んでいた頃を覚えているだろうか。
出来るなら忘れないでいてほしい。
紡いでいってほしい。
私が消えて、歴史だけか残ったその後も。



彼女は言った。
例えば君の、人生最良の日に私はそばにいたい。
赤と白の花びらを月が照らしていた。
私は月の力を信じている。
彼女はたしか、そう言った。
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