人魚/ホロウ・シカエルボク
得しようとしましたが、あの時のNの、なにかぼんやりとした表情が妙に気になり、二週間後に一日だけ取れた休みの日に、朝一で彼を訪ねることに決めました。
その日は真夏にしては少しおだやかな、よく晴れたいい天気でした。ぼくは目が覚めるとすぐに顔を洗い、服を着替えてNのアパートに向かいました。階段を上り、何も考えずいつものようにドアを開けて、ひどい臭気に喉を掴まれ、咽こみました。ぼくの仕事は飲食業なので、その臭いには覚えがありました。鼠が、罠にかかって死んだまましばらく気付かれなかったときの臭いです。ぼくは部屋の奥に目をやりました。首に縄をかけたNが、窓のあたりでぶらさがっていました。目や、首のあた
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