人魚/ホロウ・シカエルボク
思いましたが、それは聞かない方がいいような気がして、今度時間をつくるから話でもしよう、と約束するに留めました。仕事に戻らなければならない時間が近づいていたので、じゃあ、またゆっくり、と言って別れようとした時、Nが、ぼそっとこんなことを言いました。
「人魚と暮らしてるんだ。」
人魚?とぼくは聞き返しましたが、Nはただうっすらとやつれた顔に笑みを浮かべているだけでした。詳しく聞きたいところでしたが、もう行かなきゃ、と行ってそこを離れました。仕事に戻ってから、もう少し聞いてみればよかった、と後悔しました。でもNのことです、そんなあだ名のある、珍しい魚でも手に入れたのかな―と、そんな風に納得し
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