三十万分の一の確率に勝った話/フゥ
得ない出来事だと医者が言った。脈々と続く歴史の何処かで父と母が血縁関係かつ、その二人の遺伝子組み合わせパターンでなければ起こらない。奇跡的だと。
私は、三十万分の一の確率に勝ったのだ。
比喩ではなく死ぬほど苦しいだろう状態で、絶対に大丈夫だと信じて最後まで自分からは諦めず、父は病と戦った。
そして、入院して三年目の春、彼は死亡した。
体力が回復せず、移植手術が受けられなかったのだ。
最後に書いた直筆のメモは、チラシの裏。家電量販店のカラフルな広告の、つるりとした白い裏面にボールペンで書かれていた。内容は、家の廊下の電球を取り替えるときはこれを使うんだよって説明。震える手で時間を掛けて書いたのだろう。少しずつ大きさがバラバラで、ミミズが這ったような、それでも丁寧に一文字ずつ書かれた文章だった。
移植手術は行えなかった。彼は病気により死亡した。
結論だけ見れば、負けかもしれない。
ねぇ、それでも私は、私たちは、三十万分の一の確率に勝ったんだよ。
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