彼と彼女の日常/石田とわ
い、本を手にする姿は以前と同じ彼だった。
ある日彼女が一房の葡萄を買ってきた。
「アレキサンドリアよ。少し口にする?」
小皿に盛られた数粒の葡萄を彼女は宝石みたいと笑った。
食事ができない彼のための葡萄。
その夜、一粒の葡萄がその喉を通った。
彼女とわたしも彼の傍らで一緒に葡萄をつまむ。
葡萄がいかにきれいに並べられていたかを語って聞かせる
その顔はとてもうれしげだった。
それからしばらくして彼女は往診をしてくれる先生を彼に紹介した。
その医者は彼女とわたしにこう言った。
「何かあったらすぐ呼ぶよ
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