彼と彼女の中庭/石田とわ
 
はけっして泣かなかった。

「彼はわたしとあなたで看とるのよ」
まるでそれが楽しい事かのように彼女は笑った。

この中庭にいるとその日の事が嘘のように思える。
まるでここはどこかの避暑地のように緑に囲まれ、散歩道には
いろいろな花が咲き乱れている。

         
「・・・それで、この場面がカッコイイの!!」
彼女は本を読むのをやめ、いかに主人公がカッコイイかを
夢中になって話している。

彼は告知を受けてからも変わらなかった。
まるで知っていた事かのように医者の話を聞き終わると本に目を戻した。

今も煙草を燻らせながら楽しそうに彼女の話に耳を傾けている。
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