彼と彼女の中庭/石田とわ
一番の楽しみになった。
理由は簡単、煙草が吸えるからだ。
中庭には今日は誰もいない。
青々とした芝生が眩しく、裸足になると気持ちがいい。
彼はベンチに座りそんなわたしを見ながらゆっくりと煙草を吸う。
彼女は隣りで読みかけの本を取りだす。
ここが病院じゃなければいいのに、いつもそう思う。
入院から二カ月、彼は今月末に退院することになった。
様々な検査が続き入院から三週間して手術が行われたが
彼を蝕む癌はそのまま彼の身体に残されたままとなった。
わずかな固形物も摂れなくなり、彼は嘔吐を繰り返した。
「もって三カ月でしょう。告知はしますか
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